50代を迎えた10年近く前、年末年始にバイトをしたことがある。

年末年始にバイトをした経験談

  • ウェブ全体を検索
  • このサイト内を検索

年末年始にバイトをした経験談

50代を迎えた10年近く前、年末年始にバイトをしたことがある

★ 58歳 : 男性の話
50代を迎えた10年近く前、年末年始にバイトをしたことがある。
私が経営する会社の資金繰りが思わしくなくなってきた時のことだ。屈辱的なことだが、その頃は1円でも欲しかったし、年末年始に休んでいる気になれないほど、追いつめられていたのだ。バイト先は近所の弁当工場。コンビニに納入している。主に主婦や、東南アジアの若者が働いている場所だ。
勤務時間帯は午後10時〜午前4時。電話し、面接を申し込んだ。おそらく、大晦日前日から三が日の5日間、手が足りないのだろう。通常の面接というよりは、勤務意欲の確認と衛生検査だった。衛生検査は、鼻の下を綿棒で拭き取り、後で分析するもの。これに合格することが必須条件だった。仕事に必要なスキルなんて無用だった。特定の菌を保有する者は、不合格らしい。
そこは食品工場だ。家の近所で工場のマイクロバスが、ピックアップしてくれる。そして、20分程走った山奥が工場だった。往きは良いのだが、帰りのマイクロバスの時間が判らず。現場の班長に尋ねると「放送をよく聞いておけ」という。
ところが、現場の機械音がうるさくて聞き取れない。やっと慣れて聞き取れたのは最終日。それまでは仕方なく、1時間ほど歩いて帰った。山道がきついので、自転車も無理だった。夜が明けていく時間帯に寒さを感じながら歩くと、情けない気持ちに落ち込んだ。
仕事は当初、弁当詰めやおにぎり作りかと思っていたが、これは女性の仕事。地下からエレベーターでひっきりなしに上がってくる飯を、各レーンに運ぶのが仕事だった。上がってくる飯は白米だけじゃない、焼き飯、おこわ、赤飯、寿司飯もある。白米にもランク分けがあった。確かに男でなければできない、力仕事だった。
作業場に入るには、白衣やゴム手袋を着けるまでに多くの段階で除菌作業がある。日本の食品工場だと感じた。だから、そう簡単にトイレに行けない。トイレに行ったら、振り出しに戻って除菌作業があるからだ。だから、途中でトイレに行くことは無かった。
時々、班長から怒られ、作業の間違いを指摘されることがあったが、当初から特段指導もなかったので、何を怒られたのか皆目解らないことがしばしばだったし、概ね放ったらかしだった。朝方になると眠気が襲ってくるが、どんどん飯が上がってくる。いつだったか、タイ人と思しきご婦人が部屋にやってきて、エプロンに大量の寿司飯を包んで、自分の現場に持っていった。「お腹空いたから」と悪びれずに笑っていた。東南アジア人のたくましさを感じた。
あっという間に5日間が終わったが、あの労働でこの金額かと思うほど、わずかな報酬だった。その春、見事に会社は倒産した。
もうあんな生活には戻りたくない、という気持ちが今を支えているような気がする。


Copyright(c) 2020 年末年始にバイトをした経験談 All Rights Reserved.